ソフトウェア開発者の間で、話題の書籍「SOFT SKILLS」を読みました。ひと通り読んで感じたことなど書いてみます。
同じ内容の文章を読んでも、それを誰が書いたかによって受ける印象は変わります。
まさに、それを実感した本でした。
ソフトウェア開発者が書いたビジネス書
この本は、「ソフトウェア開発者」が語る「ソフトウェア開発者の人生マニュアル」です。ざっくり言えば、「ソフトウェア開発者向けのビジネス書」ともいえるでしょう。
内容自体は、ビジネス書を数冊読んだことがある人であれば、それほど目新しいというわけではありません。実際、書籍内でも筆者が参考にしているビジネス書(ロバート・キヨサキの「金持ち父さん 貧乏父さん」やデール・カーネギーの「人を動かす」など)が紹介されており、こうした書籍から影響を受けた思考や行動がつづられています。
ビジネス書は、私も嫌いではないので、たまに読みます。やはり、読んだ後は元気が出るので、即効性の高い心のドーピングとして重宝します。
ただ、ビジネス書は、突然、大金持ちに声をかけられて、人生のアドバイスを受けたり、象が成功へのアドバイスをくれたりと現実離れしている面もあり、内容は面白く参考にできるところはあっても、身近な話として飲み込みづらい面もあります。
その点、本書は、「ソフトウェア開発者」が書いているのが大きな特徴です。それぞれの内容は、他のビジネス書と似たものでも、開発者の目線で書かれているので、身近な話として受け止めやすくなっています。(アメリカと日本とで事情は異なるものの)同じソフトウェア開発者が、自分の体験を語りかけてくれているように感じました。
序文からして、ロバート・C・マーティン(アンクル・ボブ)とスコット・ハンセルマンですから、普通のビジネス書では無いことは明らかです。アンクル・ボブの序文は秀逸で、これだけでも一つの章になりますね。ここで、グッと引き込まれて、本書に対する信頼感が上がります。
75のブログエントリ
本書は、テーマごとに7つの部があり、それぞれの部が細かな章に分かれています。全体としては、450ページほどあるのですが、章が71個(+付録4章)あるので、1つの章は数ページ程度です。これだと、空き時間に1章だけ読もうと気軽に読み進めることができます。書籍でも書かれていますが、1章は1ブログエントリを読むくらいの感覚なので、このあたりもソフトウェアエンジニアにチューンされたビジネス書と言えます。
第1部 キャリアを築こう 第2部 自分を売り込め! 第3部 学ぶことを学ぼう 第4部 生産性を高めよう 第5部 お金に強くなろう 第6部 やっぱり、体が大事 第7部 負けない心を鍛えよう
特に良いなと感じたのは、第2部と第4部です。
コードを書き、ブログを書き、人前で発表して、書籍も書くというのは、自分の活動と重なる部分があって興味深く読めました。
また、生産性の向上については、Rebuild FM #139 を聞いてから、また自分自身の熱が戻ってきており、ちょうどポモドーロ・テクニックをやっていたので、タイムリーでした。書籍で紹介されていた KanbanFlow は便利に使っていますし、最近はスタンドアップで仕事したりしてます。こうした話は気軽に試すことができるので、即効性がありますね。
このあたりまで順調に読み進めていて、会う人にも、この本いいよ!と勧めていました。
ソフトウェア開発者に向けたビジネス書
いつもどおり楽しみに読み進めていたのですが、第5部あたりから印象が変わっていきます。
ここは、お金に関する話ということで、経済的自由をいかに手に入れて、自分の望む生き方をしていくかというビジネス書定番のテーマに入ります。
「第55章 打ち明け話: 私が 33 歳で引退できた理由」がターニングポイントでした。
この章では、筆者がいかに現在の成功を収めるかが自伝として語られています。20代はじめに年15万ドルをソフトウェア開発者として稼ぎ、そこから不動産や株式投資で稼ぐ方法を模索します。そして、オンラインでプログラミング講座を公開していきます。さらに、時折、モデルや俳優もやっていたそうです*1。もちろん、良いことばかりではなく、色々な浮き沈みが語れられており、ハードワークをこなした結果、現在へと行き着いたというわけです。
これは誰もができることはなく、読んでいる自分も、ただただ、すごいなあ、という感想を持ちました。
でも、なぜか、私のテンションは下がっていきました。なんだか、身近な人と感じていたのが、急に遠くの人に感じるような。
同じ内容の文章を読んでも、筆者へのイメージによって、受ける印象は変わります。
このあたりから、よくあるビジネス書を読む感じで進んでいきました。このあたりからは、ソフトウェア開発者はあまり関係無く、一般的な話(お金、体、心のあり方)になるので余計にそうした印象を受けました。
後半におすすめ書籍として、「CODE COMPLETE 第2版 上 完全なプログラミングを目指して」や「Clean Code アジャイルソフトウェア達人の技」、「Head Firstデザインパターン ―頭とからだで覚えるデザインパターンの基本 *2」が入っていたので、ああソフトウェア開発者なんだと再認識して安心したくらいです。
さいごに
訳者あとがきで、本書を翻訳された長尾さんが「うまいニッチ(第20章)を見つけたもの」と書かれていたのに深く納得しました。まさに、「ソフトウェア開発者に向けたビジネス書」というニッチを上手く狙った書籍というのが読み終えた印象でした。
読み手は文章の内容から勝手に書き手のイメージを作り、そのイメージで書かれた内容を受け止めます。本書では、その受ける印象の違い(変化)を感じることができました。
おそらく本書を手にとる人は、他の開発者から「いいよ!」と勧められて読み始める人が多いでしょう。そこで、このエントリの内容を少し頭に入れた上で読み進めると、また違う捉え方ができるかもしれません。
私もほとぼりが覚めた頃にまた開いてみて、その違いを楽しんでみたいと思います。
- 作者: ジョン・ソンメズ
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