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PHPをメインにWebシステムを開発してます。Webシステム開発チームの技術サポートも行っています。

OPcache オペコードキャッシュの仕組み

本エントリでは、PHP の内部実装(php-src)から OPcache のオペコードキャッシュの仕組みを見ていきます。

OPcache にはいくつかの機能がありますが、ここでは共有メモリへのオペコードキャッシュと preload が対象です。ファイルベースのキャッシュと JIT については触れません。

サマリ

オペコードキャッシュ

  • OPcache のオペコードキャッシュでは PHP ファイル単位でコンパイル結果をキャッシュする。
  • キャッシュは共有メモリに置かれ、php-fpm プロセスで共有されるので、php-fpm プロセス間で同じキャッシュを利用できる。
  • オペコードキャッシュは PHP ファイルのコンパイル処理を置き換えることで実現している。

preload

  • preload は php-fpm 起動時に指定された PHP ファイルをコンパイル、実行して、関数定義、クラス定義をメモリに格納する。この時、オペコードキャッシュも行われる。
  • php-fpm ワーカープロセスでは preload で保持した関数定義、クラス定義を利用できる。これによりオートロードの実行を抑制できる。
  • preload で読み込んだ関数定義、クラス定義は php-fpm 再起動まで消えない。これはメリットにもデメリットにもなる。
    • メリット: パフォーマンス向上
    • デメリット: 不要な定義のメモリ保持、同一名称の関数やクラス定義を共存できない

オペコードキャッシュと preload の比較

new Foo() のようにクラス操作を行う場合の挙動の違いは下表のようになります。ここでは、1) と 2) は Foo クラスが未定義であり、2) は Foo クラスを定義したオペコードキャッシュが存在するケース、また 3) では preload で Foo クラス定義をコンパイル済みのケースを想定しています。

オートロード PHP ファイルコンパイル
1) OPCache 無効 実行 実行
2) OPcache オペコードキャッシュ有効 実行 実行しない
3) OPcache preload 実行 実行しない 実行しない
  • ローカルでの検証では、preload によるレイテンシ、スループットの向上は 5-10% 程度だった。
  • 一方、preload には上述のようなデメリットもあり、また preload で効果的に関数定義、クラス定義を格納するためにチューニングが必要。
  • preload 利用による実行速度向上と preload 非利用による柔軟性のどちらを取るか。

オペコードキャッシュ

OPcache のオペコードキャッシュは、PHP ファイルのコンパイル結果を共有メモリもしくはファイルにキャッシュします。一般的には共有メモリキャッシュが利用されています。コンパイル結果をキャッシュしておくことで、コンパイル処理をスキップできるのでパフォーマンスを向上できます。

https://www.php.net/manual/ja/intro.opcache.php

ここでは以下の仕組みを見ていきます。

  • オペコードキャッシュデータレイアウト
  • オペコードキャッシュ初期化
  • オペコードキャッシュ処理

キャッシュデータレイアウト

キャッシュデータに関連するデータレイアウト、構造体をまとめておきます。

グローバル変数、マクロ

まず、OPcache 拡張で利用しているグローバル変数とマクロです。php-src ではグローバル変数とそこに簡潔な表記でアクセスするためのマクロが多数実装されているので、マクロとその定義を抑えておくことでコードを読むのが捗ります。

  • ZCSG(v): accel_shared_globals->v
  • ZCG(v): accel_globals.v
  • ZSMMG(v): smm_shared_globals->v
extern zend_accel_shared_globals *accel_shared_globals;
#define ZCSG(element)   (accel_shared_globals->element)

extern zend_accel_globals accel_globals;
# define ZCG(v) (accel_globals.v)

extern zend_smm_shared_globals *smm_shared_globals;
#define ZSMMG(element)      (smm_shared_globals->element)

キャッシュデータ構造体

キャッシュデータが格納されている構造体です。オペコードキャッシュが格納されているのは、ZCSG(hash) (下図の zend_accel_shared_globals.hash)です。ZCSG(hash) は zend_accel_hash 構造体となっており、さらにその要素は下図のような構成となっています。コンパイル結果生成されるオペコード列や関数テーブル、クラステーブルは zend_script 構造体に格納されており、これがオペコードキャッシュの核となるデータです。

classDiagram
        note for zend_accel_shared_globals "ZCSG(hash)" 
    class zend_accel_shared_globals {
        zend_accel_hash hash
    }

        direction LR
    class zend_accel_hash {
        zend_accel_hash_entry **hash_table
        zend_accel_hash_entry  *hash_entries
        uint32_t               num_entries
        uint32_t               max_num_entries
        uint32_t               num_direct_entries        
    }

    class zend_accel_hash_entry {
        zend_ulong             hash_value
        zend_string           *key
        zend_accel_hash_entry *next
        void                  *data
        bool                   indirect        
    }
    
    class zend_persistent_script {
        zend_script    script
        accel_time_t   timestamp
    }    
    
    class zend_script {
        zend_string   *filename
        zend_op_array  main_op_array
        HashTable      function_table
        HashTable      class_table
    }

    zend_accel_shared_globals -- zend_accel_hash
    zend_accel_hash -- zend_accel_hash_entry
    zend_accel_hash_entry -- zend_persistent_script
    zend_persistent_script -- zend_script

オペコードキャッシュ: ZCSG(hash)

オペコードキャッシュは、ZCSG(hash) (accel_shared_globals->hash)に格納されます。この領域は共有メモリにマッピングされており、この値は同一ノード上の php-fpm プロセスで共有されています。

typedef struct _zend_accel_shared_globals {
// (snip)
    zend_accel_hash hash;             /* hash table for cached scripts */
// (snip)
} zend_accel_shared_globals;

ZCSG(hash) の型は zend_accel_hash であり、下記のようなレイアウトになっています。

typedef struct _zend_accel_hash {
    zend_accel_hash_entry **hash_table;
    zend_accel_hash_entry  *hash_entries;
    uint32_t               num_entries;
    uint32_t               max_num_entries;
    uint32_t               num_direct_entries;
} zend_accel_hash;

typedef struct _zend_accel_hash_entry zend_accel_hash_entry;
struct _zend_accel_hash_entry {
    zend_ulong             hash_value;
    zend_string           *key;
    zend_accel_hash_entry *next;
    void                  *data;
    bool                   indirect;
};

hash_table と hash_entries がキャッシュを保持しています。hash_table は名前のとおりハッシュテーブルです。キーは通常 PHP ファイルパスで、値は hash_entries 要素へのポインタです。

この構成を見るためにキャッシュエントリを取得する zend_accel_hash_find_ex() での実行例を見てみましょう。/app/index.php がキーの場合、ハッシュテーブルのインデックスは 5729 になっています。hash_table[5720] の値 0xaaaaa321fc78 は、hash_entries の最初の要素と同じアドレスになっています。/app/Foo.php がキーの場合も同様に、キーから算出したインデックス 14500 に該当する hash_table の値は、hash_entries の 2 番目の要素と同じアドレスになっています。

>>> print_zstr key
string(14) "/app/index.php"
>>> p index
$10 5729
>>> p accel_shared_globals.hash.hash_table[5729]
$11 = (zend_accel_hash_entry *) 0xaaaaa321fc78
>>> p accel_shared_globals.hash.hash_entries+0
$12 = (zend_accel_hash_entry *) 0xaaaaa321fc78
  
>>> print_zstr key
string(12) "/app/Foo.php"
>>> p index
$20 = 14500
>>> p accel_shared_globals.hash.hash_table[14500]
$21 = (zend_accel_hash_entry *) 0xaaaaa321fca0
>>> p accel_shared_globals.hash.hash_entries+1
$22 = (zend_accel_hash_entry *) 0xaaaaa321fca0

accel_shared_globals や accel_shared_globals.hash は、php-fpm 親プロセスが zend_accel_init_shm() で初期化しており、共有メモリにマッピングされた領域をアサインしています。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L2833

[0] from 0x0000fffff4b13e34 in zend_accel_init_shm+12 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:2838
[1] from 0x0000fffff4b14988 in accel_post_startup+396 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:3206
[2] from 0x0000aaaaab1985ec in zend_post_startup+80 at /php-src/Zend/zend.c:1072
[3] from 0x0000aaaaab0dffac in php_module_startup+1168 at /php-src/main/main.c:2267
[4] from 0x0000aaaaab347b90 in php_cgi_startup+28 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:789
[5] from 0x0000aaaaab349f98 in main+1396 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:1763

キャッシュエントリ: zend_accel_hash_entry

キャッシュエントリの構造体は _zend_accel_hash_entry です。_zend_accel_hash_entry.data がキャッシュデータです。このフィールドは void* となっていますが、 実際は zend_persistent_script* もしくは zend_accel_hash_entry* の値になっています。通常は zend_persistent_script*となりますが、キャッシュを格納する際のキーが PHP ファイルパスと異なる場合に zend_accel_hash_entry* となるケースがあります。

typedef struct _zend_persistent_script {
    zend_script    script;
  // (snip)
} zend_persistent_script;

zend_persistent_script にはいくつかフィールドがあるのですが、script がオペコードキャッシュのメインです。

typedef struct _zend_script {
    zend_string   *filename;
    zend_op_array  main_op_array;
    HashTable      function_table;
    HashTable      class_table;
} zend_script;

zend_script のレイアウトには下記が含まれています。PHP ファイルパス以外の値は、PHP ファイルをコンパイルした結果であり、これをキャッシュすることでコンパイルをスキップできます。

  • filename: PHP ファイルパス
  • main_op_array: オペコード列
  • function_table: 関数テーブル
  • class_table: クラステーブル

PHP ファイルをキャッシュしている場合、下記のように値を参照できます。

>>> print_zstr ((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[1].data).script.filename
string(12) "/app/Foo.php"

>>> print_ht &((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[1].data).script.class_table
Hash(1)[0xaaaad6abec30]: {
  [0] "foo" => [0xaaaad6abed10] pointer: 0xaaaad6abed30
}

キャッシュデータ初期化

OPcache のオペコードキャッシュは共有メモリに配置されます。共有メモリセグメントの確保は、php-fpm 起動時に php-fpm コマンドプロセスにて zend_shared_alloc_startup() を実行して行います。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/zend_shared_alloc.c#L168

[0] from 0x0000fffff4b4260c in zend_shared_alloc_startup+20 at /php-src/ext/opcache/zend_shared_alloc.c:173
[1] from 0x0000fffff4b14954 in accel_post_startup+344 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:3201
[2] from 0x0000aaaaab1985ec in zend_post_startup+80 at /php-src/Zend/zend.c:1072
[3] from 0x0000aaaaab0dffac in php_module_startup+1168 at /php-src/main/main.c:2267
[4] from 0x0000aaaaab347b90 in php_cgi_startup+28 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:789
[5] from 0x0000aaaaab349f98 in main+1396 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:1763

共有メモリを操作する実装にはバリエーションがあり、ビルド時の configure によって決定します。本エントリで検証した環境(Docker Desktop 上の Debian 12)では mmap を利用していました。

zend_shared_alloc_startup() 実行後に pmap を実行すると 0000aaaaa2a00000 に 128MiB の共有メモリがマップされているのが分かります。

$ pmap 16 | grep zero
0000aaaaa2a00000 131072K rw-s- zero (deleted)

smm_shared_globals や smm_shared_globals.shared_segments を見ると、共有メモリがマップされているメモリ領域に配置されています。

>>> p smm_shared_globals
$17 = (zend_smm_shared_globals *) 0xaaaaa2a00000
>>> p smm_shared_globals.shared_segments
$18 = (zend_shared_segment **) 0xaaaaa2a00050

これ以降、zend_shared_alloc() を実行することで、smm_shared_globals.shared_segments が持つ共有メモリにマップされた領域を割り当てことができます。オペコードキャッシュを格納する accel_shared_globals は下記のように zend_shared_alloc() を実行して共有メモリにマップされた領域を確保しています。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L2848

accel_shared_globals = zend_shared_alloc(accel_shared_globals_size);

OPcache 処理の有効化

OPcache のオペコードキャッシュ関連の処理は、zend_compile_file() などの関数ポインタや PHP 関数に専用の関数を割り当てることで実行されます。OPcache の関数を割り当てる箇所には下記があります。

割り当てる箇所 OPcache 関数 メモ
zend_compile_file persistent_compile_file PHP ファイルをコンパイル
zend_stream_open_function persistent_stream_open_function PHP ファイルをオープン
zend_resolve_path persistent_zend_resolve_path PHP ファイルパスを解決
PHP 関数: chdir() ZEND_FN(accel_chdir) カレントディレクトリ変更
ini_entry->on_modify accel_include_path_on_modify include_path ディレクティブに値がある場合に適用
PHP 関数: file_exists() accel_file_exists opcache.enable_file_override = true の場合に適用
PHP 関数: is_file() accel_is_file opcache.enable_file_override = true の場合に適用
PHP 関数: is_readable() accel_is_readable opcache.enable_file_override = true の場合に適用

この割り当ては php-fpm 親プロセスで accel_post_startup() を実行して行われます。下記では、PHP ファイルをコンパイルする関数を指す関数ポインタ zend_compile_file に OPcache に含まれる persistent_compile_file() を割り当てています。zend_compile_file の元の値は accelerator_orig_compile_file に保持しておき、キャッシュが存在しない場合など PHP ファイルをコンパイルする場合はこれを呼び出します。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L3283-L3285

 /* Override compiler */
    accelerator_orig_compile_file = zend_compile_file;
    zend_compile_file = persistent_compile_file;
[0] from 0x0000fffff4b14b78 in accel_post_startup+892 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:3284
[1] from 0x0000aaaaab1985ec in zend_post_startup+80 at /php-src/Zend/zend.c:1072
[2] from 0x0000aaaaab0dffac in php_module_startup+1168 at /php-src/main/main.c:2267
[3] from 0x0000aaaaab347b90 in php_cgi_startup+28 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:789
[4] from 0x0000aaaaab349f98 in main+1396 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:1763

PHP 関数の割り当てには、CG(function_table) にある該当関数の関数エントリが持つ internal_function.handler に OPcache 関数をセットすることで実現しています。例えば、下記では PHP 関数の chdir() に ZEND_FN(accel_chdir) をセットしています。

 if ((func = zend_hash_str_find_ptr(CG(function_table), "chdir", sizeof("chdir")-1)) != NULL &&
        func->type == ZEND_INTERNAL_FUNCTION) {
        orig_chdir = func->internal_function.handler;
        func->internal_function.handler = ZEND_FN(accel_chdir);
    }

ちなみに、Zend Engine では、オペコード DO_FCALL 実行時に下記のように PHP 組み込み関数を実行しています。(実際は zend_vm_def.h を元に自動生成する zend_vm_execute.h を利用する)

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/Zend/zend_vm_def.h#L4212-L4215

     if (!zend_execute_internal) {
            /* saves one function call if zend_execute_internal is not used */
            fbc->internal_function.handler(call, ret);
        } else {

PHP ファイルコンパイル処理でのキャッシュ制御

上述の通り、PHP では zend_compile_file という関数ポインタを実行することで PHP ファイルをコンパイルします。 OPcache では zend_compile_file に persistent_compile_file() をセットして、コンパイル処理にキャッシュ制御を追加しています。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L1975

zend_op_array *persistent_compile_file(zend_file_handle *file_handle, int type)

この関数は下記の引数を取ります。

  • file_handle: PHP ファイルハンドル
  • type: ファイルオープンエラー時のエラー制御用(zend_compile_file にデフォルトでセットされている compile_file() で利用)
    • ZEND_REQUIRE
    • ZEND_INCLUDE

戻り値には、コンパイル処理で生成されたオペコード列を返します。

persistent_compile_file() では下記のような処理を行います。

  • 引数の PHP ファイルハンドルに含まれるファイルパスをキーにキャッシュされているスクリプト情報(zend_persistent_script*)を取得。
  • スクリプト情報が存在する場合
    • キャッシュエントリが有効かをチェック。
      • 有効なら、キャッシュエントリの内容を Zend Engine に読み込んで、オペコード列を返して終了。
      • 無効なら、破棄して以後の処理に進む。
  • キャッシュエントリが存在しない、無効な場合
    • PHP ファイルをコンパイルして、結果をキャッシュする。
    • キャッシュエントリを Zend Engine に読み込んで、オペコード列を返して終了。

この関数では persistent_script 変数にスクリプト情報が割り当てられているので、この変数を追うことで処理の流れが分かります。

persistent_compile_file() の主な処理

persistent_compile_file() から主要な関数呼び出しは下図のようになります。

sequenceDiagram
    PHPファイルコンパイルを要求するコード->>persistent_compile_file(): PHPファイルをコンパイル
    persistent_compile_file()->>zend_accel_hash_find(): キャッシュ取得
    zend_accel_hash_find()->>ZCSG(hash): キャッシュ取得
    ZCSG(hash)-->>zend_accel_hash_find(): zend_persistent_script or NULL
    zend_accel_hash_find()-->>persistent_compile_file(): zend_persistent_script or NULL
    alt 戻り値が zend_persistent_script
        alt opcache.validate_permission = 1
          persistent_compile_file()->>validate_timestamp_and_record(): キャッシュのタイムスタンプが有効かチェック
          validate_timestamp_and_record-->>persistent_compile_file(): SUCCESS or FAILURE
          alt 戻り値が FAILURE
            persistent_compile_file()->>persistent_compile_file(): キャッシュを無効化し、再度コンパイルする
          end
        end
    else 戻り値が NULL
        persistent_compile_file()->>opcache_compile_file(): コンパイル
        opcache_compile_file()-->>persistent_compile_file(): zend_persistent_script or NULL
        alt 戻り値 が zend_persistent_script
            persistent_compile_file()->>cache_script_in_shared_memory(): zend_persistent_script をキャッシュ
            cache_script_in_shared_memory()->>ZCSG(hash): キャッシュ取得
            ZCSG(hash)-->>cache_script_in_shared_memory(): return
            cache_script_in_shared_memory()-->>persistent_compile_file(): zend_persistent_script
        end
    end
    persistent_compile_file()->>zend_accel_load_script(): zend_persistent_script を PHP に読み込み
    zend_accel_load_script()-->>persistent_compile_file(): オペコード列
    persistent_compile_file()-->PHPファイルコンパイルを要求するコード: オペコード列

キャッシュからスクリプト情報を取得するコードは下記のようになっています。ここでは、zend_accel_hash_find() がキャッシュを取得する関数です。他にも ZCG(cache_persistent_script) からキャッシュを取得するケースもありますが、ベースとしては ZCSG(hash) からキャッシュを取得する点は同じです。

persistent_script = zend_accel_hash_find(&ZCSG(hash), key);

有効なキャッシュが存在せず、PHP ファイルをコンパイル処理は下記です。opcache_compile_file() が PHP ファイルをコンパイルして、オペコード列を返します。

persistent_script = opcache_compile_file(file_handle, type, &op_array);

生成したオペコード列をキャッシュに格納するのが下記です。cache_script_in_shared_memory() を呼ぶことで、キャッシュを行います。

     /* Try and cache the script and assume that it is returned from_shared_memory.
        * If it isn't compile_and_cache_file() changes the flag to 0
        */
        from_shared_memory = false;
        if (persistent_script) {
            persistent_script = cache_script_in_shared_memory(persistent_script, key, &from_shared_memory);
        }

キャッシュの有無に関わらず、最後に persistent_script の内容を zend_accel_load_script() で Zend Engine に読み込んでオペコード列を返します。

return zend_accel_load_script(persistent_script, from_shared_memory);

zend_accel_hash_find(): キャッシュからオペコード取得

キャッシュからオペコード取得するには zend_accel_hash_find() や zend_accel_hash_find_entry() を利用します。どちらも内部的に zend_accel_hash_find_ex() を呼んでおり、この関数が実際にこの処理を行います。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/zend_accelerator_hash.c#L141

static zend_always_inline void* zend_accel_hash_find_ex(zend_accel_hash *accel_hash, zend_string *key, int data)

この関数は下記の引数を取ります。戻り値は引数 data の値によって変わります。

  • accel_hash: キャッシュを保持している zend_accel_hash*
  • key: 対象キー。通常、PHP ファイルパスを指定。
  • data: キーに合致した値の形式
    • 0 ならエントリのポインタ(zend_accel_hash_entry*) を返す
    • 0 以外ならエントリの data フィールドのポインタ(void*) を返す

キャッシュは PHP ファイルパスをキーに格納されているので、引数 key からインデックスを算出してエントリを取得します。

 hash_value = zend_string_hash_val(key);
#ifndef ZEND_WIN32
    hash_value ^= ZCG(root_hash);
#endif
    index = hash_value % accel_hash->max_num_entries;

    entry = accel_hash->hash_table[index];

entry が取得したキャッシュエントリです。異なるキーから同一インデックス値が生成されることを考慮して、entry が持つハッシュ値やキーが引数で指定したものとチェックした後に引数 data に応じて、entry もしくは entry->data を返します。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/zend_accelerator_hash.c#L154-L172

 while (entry) {
        if (entry->hash_value == hash_value
         && zend_string_equals(entry->key, key)) {
            if (entry->indirect) {
                if (data) {
                    return ((zend_accel_hash_entry*)entry->data)->data;
                } else {
                    return entry->data;
                }
            } else {
                if (data) {
                    return entry->data;
                } else {
                    return entry;
                }
            }
        }
        entry = entry->next;
    }
    return NULL;

validate_timestamp_and_record(): キャッシュエントリのタイムスタンプの有効性チェック

opcache.validate_timestamps=1 の場合(デフォルト)、取得したキャッシュエントリのタイムスタンプの有効性をチェックします。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L1159

zend_result validate_timestamp_and_record(zend_persistent_script *persistent_script, zend_file_handle *file_handle)

キャッシュエントリのタイムスタンプと PHP ファイルのタイムスタンプを比較して、一致しなければ PHP ファイルが更新されたと判断します。更新されたと判断された場合、キャッシュを破棄して、コンパイルを再度行います。

この処理では、PHP ファイルのタイムスタンプを取得が必要となります。例えば、php-fpm コンテナに PHP アプリケーションコードを内包するようなケースであれば、php-fpm 実行中に PHP ファイルが変更されることは無い思うので、こういったケースでは opcache.validate_timestamp=0 を指定することで、この処理をスキップできます。

opcache_compile_file(): PHP ファイルのコンパイル

有効なキャッシュが存在しない場合は PHP ファイルのコンパイルを行います。この処理は opcache_compile_file() で行います。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L1725

static zend_persistent_script *opcache_compile_file(zend_file_handle *file_handle, int type, zend_op_array **op_array_p)

下記がコンパイルを行う箇所です。accelerator_orig_compile_file には zend_compile_file に格納されていた関数が格納されているので、これで PHP ファイルをコンパイルします。生成したオペコード列を op_array と op_array_p に格納しています。

 zend_try {
        orig_compiler_options = CG(compiler_options);
        CG(compiler_options) |= ZEND_COMPILE_HANDLE_OP_ARRAY;
        CG(compiler_options) |= ZEND_COMPILE_IGNORE_INTERNAL_CLASSES;
        CG(compiler_options) |= ZEND_COMPILE_DELAYED_BINDING;
        CG(compiler_options) |= ZEND_COMPILE_NO_CONSTANT_SUBSTITUTION;
        CG(compiler_options) |= ZEND_COMPILE_IGNORE_OTHER_FILES;
        CG(compiler_options) |= ZEND_COMPILE_IGNORE_OBSERVER;
        if (ZCG(accel_directives).file_cache) {
            CG(compiler_options) |= ZEND_COMPILE_WITH_FILE_CACHE;
        }
        op_array = *op_array_p = accelerator_orig_compile_file(file_handle, type);
        CG(compiler_options) = orig_compiler_options;
    } zend_catch {
        op_array = NULL;
        do_bailout = true;
        CG(compiler_options) = orig_compiler_options;
    } zend_end_try();

コンパイル結果をキャッシュするために、zend_persistent_script 構造体を生成して結果を格納しています。オペコード列、関数テーブル、クラステーブルが主な内容です。zend_persistent_script ポインタを返してこの関数は終了です。

 new_persistent_script = create_persistent_script();
    new_persistent_script->script.main_op_array = *op_array;
    zend_accel_move_user_functions(CG(function_table), CG(function_table)->nNumUsed - orig_functions_count, &new_persistent_script->script);
    zend_accel_move_user_classes(CG(class_table), CG(class_table)->nNumUsed - orig_class_count, &new_persistent_script->script);
    zend_accel_build_delayed_early_binding_list(new_persistent_script);
    new_persistent_script->num_warnings = EG(num_errors);
    new_persistent_script->warnings = EG(errors);

cache_script_in_shared_memory(): コンパイル結果をキャッシュ

コンパイル結果のキャッシュは cache_script_in_shared_memory() で行います。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L1552

static zend_persistent_script *cache_script_in_shared_memory(zend_persistent_script *new_persistent_script, zend_string *key, bool *from_shared_memory)

引数は下記です。戻り値は zend_persistent_script* です。

  • new_persistent_script: キャッシュするスクリプト情報。
  • key: キャッシュキー(通常、PHP ファイルパス)。
  • from_shared_memory: 処理結果を保持する変数。
    • 呼び出し元でこの値によって処理が分岐する。
    • 基本は true になるが、下記ケースで元の値を維持する。
      • ZCSG(hash) に残エントリが無いかつ、opcache.file_cache が無効の場合。
      • 必要な共有メモリを確保できないかつ、opcache.file_cache が無効の場合。

本関数では、スクリプト情報をキャッシュするために zend_accel_script_persist() と zend_accel_hash_update() を実行しています。

 /* Copy into shared memory */
    new_persistent_script = zend_accel_script_persist(new_persistent_script, 1);
 /* store script structure in the hash table */
    bucket = zend_accel_hash_update(&ZCSG(hash), new_persistent_script->script.filename, 0, new_persistent_script);
zend_accel_script_persist(): コンパイル結果を共有メモリに配置

zend_persistent_script 構造体の script フィールドには、コンパイルで生成されるオペコード列や関数テーブル、クラステーブルが格納されています。これはキャッシュの核となるものです。この値の実体を共有メモリに配置するのが zend_accel_script_persist() です。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/zend_persist.c#L1322

zend_persistent_script *zend_accel_script_persist(zend_persistent_script *script, int for_shm)

この関数の動きを見るために現在のメモリマップの状態を確認しておきます。共有メモリは下記アドレスにマップされています。

0000aaaaa7a00000 131072K rw-s- zero (deleted)

関数を実行する前の script フィールドの関数テーブル、クラステーブル、オペコード列は下記のような配置となっています。いずれも通常のメモリ空間に配置されています。

>>> print_ht &new_persistent_script.script.function_table
Hash(1)[0xffffabe650f8]: {
  [0] "foo" => [0xffffabe78040] pointer: 0xffffabe04018
}
>>> print_ht &new_persistent_script.script.class_table
Hash(1)[0xffffabe65130]: {
  [0] "foo" => [0xffffabe78340] pointer: 0xffffabe04108
}
>>> p new_persistent_script.script.main_op_array.opcodes
$3 = (zend_op *) 0xffffabe5b190

この関数を実行すると、下記のようにオペコード列や関数テーブル、クラステーブルが共有メモリにマッピングされた空間に配置されていることが分かります。

>>> print_ht &new_persistent_script.script.function_table
Hash(1)[0xaaaaa82be538]: {
  [0] "foo" => [0xaaaaa82beaf8] pointer: 0xaaaaa82beb18
}
>>> print_ht &new_persistent_script.script.class_table
Hash(1)[0xaaaaa82be570]: {
  [0] "foo" => [0xaaaaa82be650] pointer: 0xaaaaa82be670
}
>>> p new_persistent_script.script.main_op_array.opcodes
$7 = (zend_op *) 0xaaaaa82bece8
zend_accel_hash_update(): キャッシュにエントリを格納

zend_persistent_hash 構造体をキャッシュに格納するのが zend_accel_hash_update() です。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/zend_accelerator_hash.c#L74

zend_accel_hash_entry* zend_accel_hash_update(zend_accel_hash *accel_hash, zend_string *key, bool indirect, void *data)

引数は下記です。戻り値にはキャッシュエントリである zend_accel_hash_entry* を返します。

  • accel_hash: キャッシュを格納するハッシュテーブル。通常は &ZCSG(hash) 。
  • key: キャッシュを格納するキー。通常は PHP ファイルパス。
  • indirect: 引数 data の型を示す値。
    • 0: data は zend_persistent_script*。
    • それ以外: data は zend_accel_hash_entry*。
  • data: キャッシュに格納する値(zend_accel_hash_entry.data に格納する)。

key からハッシュ値、インデックスを算出し、accel_hash->hash_table にエントリが存在していれば data を更新してエントリを返す。存在しない場合、新しいエントリを accel_hash->hash_tableaccel_hash->hash_entries に追加し、追加したエントリを返します。

キャッシュが完了すると、下記のように ZCSG(hash) に zend_persistent_hash が格納されていることが分かります。

// キャッシュ前
>>> p accel_shared_globals.hash
$8 = {
  hash_table = 0xaaaaa8200150,
  hash_entries = 0xaaaaa821fc78,
  num_entries = 0,
  max_num_entries = 16229,
  num_direct_entries = 0
}
  
// キャッシュ後
>>> p accel_shared_globals.hash
$10 = {
  hash_table = 0xaaaaa8200150,
  hash_entries = 0xaaaaa821fc78,
  num_entries = 1, // 増えている
  max_num_entries = 16229,
  num_direct_entries = 1 // 増えている
}
>>> print_zstr ((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries.data).script.filename
string(14) "/app/index.php" // キャッシュされた PHP ファイルパス

zend_accel_load_script(): Zend Engine に persistent_script に読み込み

キャッシュから読み込んだ zend_persistent_script を PHP(Zend Engine) で利用するために、オペコード列の取得、関数テーブルやクラステーブルの読み込み行います。この処理は zend_accel_load_script() で行います。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/zend_accelerator_util_funcs.c#L376

  // persistent_script からオペコード列を取得(最後に op_array を返す)
    op_array = (zend_op_array *) emalloc(sizeof(zend_op_array));
    *op_array = persistent_script->script.main_op_array;

  // (snip)

  // compiler_globals に読み込み
  if (zend_hash_num_elements(&persistent_script->script.function_table) > 0) {
        if (EXPECTED(!zend_observer_function_declared_observed)) {
            zend_accel_function_hash_copy(CG(function_table), &persistent_script->script.function_table);
        } else {
            zend_accel_function_hash_copy_notify(CG(function_table), &persistent_script->script.function_table);
        }
    }

    if (zend_hash_num_elements(&persistent_script->script.class_table) > 0) {
        if (EXPECTED(!zend_observer_class_linked_observed)) {
            zend_accel_class_hash_copy(CG(class_table), &persistent_script->script.class_table);
        } else {
            zend_accel_class_hash_copy_notify(CG(class_table), &persistent_script->script.class_table);
        }
    }

    if (persistent_script->num_early_bindings) {
        zend_accel_do_delayed_early_binding(persistent_script, op_array);
    }

preload

preload は php-fpm 起動時に指定された PHP ファイルを実行して関数やクラス定義をメモリの保持しておく仕組みです。preload で定義された関数やクラスは、以降の PHP コードの実行では当該定義の PHP コードを実行せずとも、PHP 内部関数のようにそのまま利用できます。

https://www.php.net/manual/ja/opcache.preloading.php

preload を有効にするには、opcache.preload に事前に実行する PHP ファイルを指定します。

opcache.preload=/path/to/preload.php

preload のポイントは下記です。

  • preload による PHP ファイルの実行は php-fpm 起動時に php-fpm プロセスによって行われる。(ワーカープロセスではない)
  • preload 実行後にワーカープロセスが生成される。
  • preload で定義された関数やクラスはプロセス終了まで残り続ける。

preload 実行

preload による PHP ファイルの実行は php-fpm 起動時に行われます。具体的には、accel_finish_startup() から preload の処理が行われます。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L4735

[0] from 0x0000fffff4b19ea0 in accel_finish_startup+8 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:4737
[1] from 0x0000fffff4b14db4 in accel_post_startup+1464 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:3331
[2] from 0x0000aaaaab19c078 in zend_post_startup+80 at /php-src/Zend/zend.c:1072
[3] from 0x0000aaaaab0e1ddc in php_module_startup+1168 at /php-src/main/main.c:2267
[4] from 0x0000aaaaab34c688 in php_cgi_startup+28 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:789
[5] from 0x0000aaaaab34ea90 in main+1396 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:1763

ここでは opcache.preload が指定されているかをチェックし、指定がなければ終了します。その後、ロックを獲得し、子プロセスを生成する処理を行う accel_finish_startup_preload_subprocess() を呼びます。ここで必要であれば prealod を子プロセスで実行します。その後、accel_finish_startup_preload() で PHP ファイルを実行します。最後にロックを解除して処理を終了します。

preload 実行のメインである accel_finish_startup_preload() を呼び出している箇所は以下です。pid は accel_finish_startup_preload_subprocess() 内で値がセットされ、-1 なら子プロセス生成なし(php-fpm プロセス)、0 なら子プロセスでの実行、それ以外なら親プロセス(php-fpmプロセス)での実行となります。子プロセスを生成した場合でも親プロセスは waitpid() で子プロセスが終了するのを待つので、同期的に処理が行われます。

 if (pid == -1) { /* no subprocess was needed */
        /* The called function unlocks the shared alloc lock */
        return accel_finish_startup_preload(false);
    } else if (pid == 0) { /* subprocess */
        const zend_result ret = accel_finish_startup_preload(true);

        exit(ret == SUCCESS ? 0 : 1);
    } else { /* parent */
        int status;

        if (waitpid(pid, &status, 0) < 0) {
            zend_shared_alloc_unlock();
            zend_accel_error_noreturn(ACCEL_LOG_FATAL, "Preloading failed to waitpid(%d)", pid);
        }

        if (ZCSG(preload_script)) {
            preload_load(); // 子プロセスでの PHP ファイル実行結果を読み込み
        }

        zend_shared_alloc_unlock();

        if (WIFEXITED(status) && WEXITSTATUS(status) == 0) {
            return SUCCESS;
        } else {
            return FAILURE;
        }
    }

accel_finish_startup_preload_subprocess()

accel_finish_startup_preload_subprocess() では、preload 実行ユーザのチェック、必要なケースでは子プロセスの生成を行います。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L4668

下記のケースで子プロセスを生成します。

  • php-fpm コマンド実行ユーザが root かつ opcache.preload_user が root 以外。

php-fpm コマンド実行ユーザが root で opcache.preload_user が未指定の場合はエラーとなります。php-fpm コマンド実行ユーザが root でも opcache.preload_user に root を指定すると、preload を root ユーザで実行できます。ただし、これは PHP ファイルを root ユーザで実行することになるので、ローカル環境での実験以外は一般ユーザを利用するように php-fpm 実行ユーザもしくは opcache.preload_user を一般ユーザにしましょう。

accel_finish_startup_preload() / accel_preload()

accel_finish_startup_preload() では PHP ファイルを実行するために下準備を行い、accel_preload() を呼び出します。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L4569

accel_preload() は preload 実行のメインであり、PHP ファイルのコンパイルや実行を行います。主な処理の流れは以下です。

  • PHP ファイルコンパイル、オペコード実行
  • 実行にて定義された関数やクラスをオペコードキャッシュに $PRELOAD という疑似ファイル名キーに格納
  • コンパイルした各ファイルをオペコードキャッシュに格納

まずいくつかの前処理を行った後、PHP ファイルのコンパイル、実行を行います。下記の該当箇所を見ると、お馴染みの zend_compile_file() や zend_execute() が実行されていることが分かります。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L4319

 zend_try {
        zend_op_array *op_array;

        ret = SUCCESS;
        op_array = zend_compile_file(&file_handle, ZEND_REQUIRE); // コンパイル
        if (file_handle.opened_path) {
            zend_hash_add_empty_element(&EG(included_files), file_handle.opened_path);
        }
        zend_destroy_file_handle(&file_handle);
        if (op_array) {
            zend_execute(op_array, NULL); // オペコード実行
            zend_exception_restore();

この時点で zend_compile_file はすでに persistent_compile_file() となっています。persistent_compile_file() では ZCG(accelerator_enabled) (accel_globals.accelerator_enabled)が false なために、下記のブロックを実行するので通常のオペコードキャッシュは実行されません。ここでは accelerator_orig_compile_file が preload_compile_file() となっているので、preload_compile_file() が実行されます。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L1975

 if (!file_handle->filename || !ZCG(accelerator_enabled)) {
        /* The Accelerator is disabled, act as if without the Accelerator */
    // このブロックが実行される
        ZCG(cache_opline) = NULL;
        ZCG(cache_persistent_script) = NULL;
        if (file_handle->filename
         && ZCG(accel_directives).file_cache
         && ZCG(enabled) && accel_startup_ok) {
            return file_cache_compile_file(file_handle, type);
        }
        return accelerator_orig_compile_file(file_handle, type); // preload_compile_file() を実行
    } else if (file_cache_only) {
preload_compile_file()

preload_compile_file() ではオリジナルのコンパイル処理を実行し、オペコード列を preload_scripts ハッシュテーブルにキャッシュします。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L3617

[0] from 0x0000fffff4b15d80 in preload_compile_file+16 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:3619
[1] from 0x0000fffff4b118f0 in persistent_compile_file+208 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:1990
[2] from 0x0000fffff4b18e30 in accel_preload+508 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:4357
[3] from 0x0000fffff4b19aac in accel_finish_startup_preload+592 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:4629
[4] from 0x0000fffff4b19fa0 in accel_finish_startup+264 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:4774
[5] from 0x0000fffff4b14db4 in accel_post_startup+1464 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:3331
[6] from 0x0000aaaaab19c078 in zend_post_startup+80 at /php-src/Zend/zend.c:1072
[7] from 0x0000aaaaab0e1ddc in php_module_startup+1168 at /php-src/main/main.c:2267
[8] from 0x0000aaaaab34c688 in php_cgi_startup+28 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:789
[9] from 0x0000aaaaab34ea90 in main+1396 at /php-src/sapi/fpm/fpm/fpm_main.c:1763
preload_script_in_shared_memory()

PHP コードを実行後、生成された関数テーブルやクラステーブルのエントリ(ユーザ定義分のみ)をオペコードキャッシュに格納します。この処理は preload_script_in_shared_memory() で行います。

https://github.com/php/php-src/blob/PHP-8.3.9/ext/opcache/ZendAccelerator.c#L4219

static zend_persistent_script* preload_script_in_shared_memory(zend_persistent_script *new_persistent_script)

preload_script_in_shared_memory() は cache_script_in_shared_memory() と同様に引数 new_persistent_script の値を ZCSG(hash) に格納します。キーは new_persistent_script->script.filename です。

accel_preload() では、この関数を 2 箇所で呼んでいます。

最初は preload 実行で生成された関数テーブルやクラステーブルを格納する zend_persistent_script です。preload 実行で複数の PHP ファイルで関数やクラスが定義されていても、この zend_persistent_script に関数やクラスが格納されます。通常、ZCSG(hash) にエントリを格納する際は PHP ファイルパスがキーになるのですが、このエントリにおいては $PRELOAD$ という特殊な文字列が利用されます。

     /* Store all functions and classes in a single pseudo-file */
        CG(compiled_filename) = ZSTR_INIT_LITERAL("$PRELOAD$", 0);

        // snip

        script->script.filename = CG(compiled_filename);
        CG(compiled_filename) = NULL;

        preload_move_user_functions(CG(function_table), &script->script.function_table);
        preload_move_user_classes(CG(class_table), &script->script.class_table);

        zend_hash_sort_ex(&script->script.class_table, preload_sort_classes, NULL, 0);

        preload_optimize(script);

        zend_shared_alloc_init_xlat_table();

        HANDLE_BLOCK_INTERRUPTIONS();
        SHM_UNPROTECT();

        ZCSG(preload_script) = preload_script_in_shared_memory(script);

もう一つの箇所が preload 実行で PHP コードから実行された PHP ファイルごとのキャッシュを生成する箇所です。preload_scripts には preload_compile_file() でコンパイルされた PHP ファイルパスやオペコード列が格納されています。それらを preload_script_in_shared_memory() でオペコードキャッシュに保存しています。ここでは PHP ファイルパスがキーとなります。このキャッシュではオペコード列がキャッシュされますが、関数テーブルやクラステーブルは格納されていません。この点は通常のオペコードキャッシュとは異なります。(関数テーブルやクラステーブルはメモリに留まり続けるので、オペコードキャッシュに格納する必要がありません。)

     i = 0;
        ZCSG(saved_scripts) = zend_shared_alloc((zend_hash_num_elements(preload_scripts) + 1) * sizeof(void*));
        ZEND_HASH_MAP_FOREACH_PTR(preload_scripts, script) {
            if (zend_hash_num_elements(&script->script.class_table) > 1) {
                zend_hash_sort_ex(&script->script.class_table, preload_sort_classes, NULL, 0);
            }
            ZCSG(saved_scripts)[i++] = preload_script_in_shared_memory(script);
        } ZEND_HASH_FOREACH_END();
        ZCSG(saved_scripts)[i] = NULL;

php-fpm 起動後にワーカープロセスにアタッチしてメモリを見ると、下記のように ZCSG(hash) にキャッシュが格納されていました。

// 最初のエントリ: $PRELOAD$
// 関数テーブルとクラステーブルにエントリが格納されている
>>> print_zstr ((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[0].data).script.main_op_array.filename
string(9) "$PRELOAD$"
// 関数テーブル
>>> print_ht &((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[0].data).script.function_table
Hash(1)[0xaaaaa32be538]: {
  [0] "hello" => [0xaaaaa32c3280] pointer: 0xaaaaa32c32a0
}
// クラステーブル
>>> print_ht &((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[0].data).script.class_table
Hash(1)[0xaaaaa32be570]: {
  [0] "foo" => [0xaaaaa32bee10] pointer: 0xaaaaa32bee30
}

// 次のエントリ: /app/preload.php
// 関数テーブルもクラステーブルも空
>>> print_zstr ((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[1].data).script.main_op_array.filename
string(16) "/app/preload.php"
// 関数テーブル
>>> print_ht &((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[1].data).script.function_table
Hash(0)[0xaaaaa32c35c0]: {
}
// クラステーブル
>>> print_ht &((zend_persistent_script*)accel_shared_globals.hash.hash_entries[1].data).script.class_table
Hash(0)[0xaaaaa32c35f8]: {
}

// 参考: $PRELOAD$ の Foo クラスエントリと CG(class_table) のクラスエントリをアドレスが一致
>>> print_ht compiler_globals.class_table
// (snip)  
  [199] "foo" => [0xaaaaac014730] pointer: 0xaaaaa32bee30
  
// $PRELOAD$ の Foo クラスエントリ  
//Hash(1)[0xaaaaa32be570]: {
//  [0] "foo" => [0xaaaaa32bee10] pointer: 0xaaaaa32bee30
//}

ワーカープロセスでの PHP コード実行

preload は php-fpm 起動時に実行されるので preload 実行が完了しないと、FastCGI リクエストを受け付けるソケットは生成されないですし、ワーカープロセスも起動されないので、リクエストを処理できる状態になりません。

これはソースコードを見ればわかるのですが、下記のような検証で簡単に確かめられます。

preload で実行する PHP ファイルを下記にします。ここでは、hello 関数と Foo クラスを定義し、sleep(600) を入れて強制的に処理待ちが発生するようにします。

<?php
declare(strict_types=1);

function hello(): void {
    var_dump(__FUNCTION__);
}

final class Foo
{
    public function hello(): void
    {
        var_dump(__METHOD__);
    }
}

sleep(600);

preload を子プロセスで実行するように、opcache.preload_user も設定しておきます。

opcache.preload=/app/preload.php
opcache.preload_user=nobody

php-fpm コマンドを実行すると処理が停止します。別ターミナルで ps でプロセスを見ると、php-fpm が 2 つあります。root ユーザで実行しているのが php-fpm コマンドで、nobody ユーザで実行しているのが preload 実行プロセスです。

root         7  0.0  0.1 207004 15424 pts/0    S+   07:55   0:00 /php-src/php/sbin/php-fpm
nobody       8  0.0  0.0 207004  8380 pts/0    S+   07:55   0:00 /php-src/php/sbin/php-fpm

preload プロセスに gdb でアタッチすると、下記のように sleep() で処理が停止していました。

[0] from 0x0000ffff96f03b50 in __GI___clock_nanosleep+64 at ../sysdeps/unix/sysv/linux/clock_nanosleep.c:48
[1] from 0x0000ffff96f08adc in __GI___nanosleep+28 at ../sysdeps/unix/sysv/linux/nanosleep.c:25
[2] from 0x0000ffff96f089a8 in __sleep+72 at ../sysdeps/posix/sleep.c:55
[3] from 0x0000aaaab00e07d0 in zif_sleep+696 at /php-src/ext/standard/basic_functions.c:1152
[4] from 0x0000aaaab0334dc8 in ZEND_DO_ICALL_SPEC_RETVAL_UNUSED_HANDLER+144 at /php-src/Zend/zend_vm_execute.h:1275
[5] from 0x0000aaaab03bed50 in execute_ex+2272 at /php-src/Zend/zend_vm_execute.h:57212
[6] from 0x0000aaaab03c3544 in zend_execute+296 at /php-src/Zend/zend_vm_execute.h:61604
[7] from 0x0000ffff94518e78 in accel_preload+580 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:4363
[8] from 0x0000ffff94519aac in accel_finish_startup_preload+592 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:4629
[9] from 0x0000ffff94519fb8 in accel_finish_startup+288 at /php-src/ext/opcache/ZendAccelerator.c:4776

この時点で 9000 ポートを Listen されていません。つまり、php-fpm はリクエストを受け付ける状態になっていないということです。

$ ss -tln | grep 9000
$

約 10 分後、preload 実行が終了し、php-fpm ワーカープロセスが生成されてリクエストを処理できる状態になりました。

[14-Jul-2024 08:05:18] NOTICE: fpm is running, pid 7
[14-Jul-2024 08:05:18] NOTICE: ready to handle connections
$ ss -tln | grep 9000
LISTEN 0      4096         0.0.0.0:9000       0.0.0.0:*
$ ps auxww | grep php-fpm
root         7  0.0  0.1 207008 17088 pts/0    S+   07:55   0:00 php-fpm: master process (/php-src/php/etc/php-fpm.conf)
nobody     287  0.0  0.0 207008  8796 pts/0    S+   08:05   0:00 php-fpm: pool www
root       294  0.0  0.0   3076  1280 pts/1    S+   08:07   0:00 grep php-fpm

preload.php で定義された hello 関数と Foo クラスはすでに PHP で有効な状態です。下記のようにそれぞれの定義を読み込まずに利用できます。

<?php
declare(strict_types=1);

hello();
(new Foo())->hello();
$ curl http://localhost:8000/
string(5) "hello"
string(10) "Foo::hello"

リクエスト終了時に関数やクラスを破棄しない

php-fpm ではリクエスト処理終了時にユーザ定義の関数やクラス定義を破棄します。これはオペコードキャッシュがある場合も同じで、リクエスト処理開始時にはユーザ定義の関数やクラスは存在せず、キャッシュから取得して、リクエスト終了時に破棄します。

これは php_request_shutdown() からのリクエスト終了処理で行われます。php_request_shutdown() 実行前の関数テーブルとクラステーブルには下記のようにユーザ定義の関数(hello())とクラス(App\Fpp)が定義されているとします。

>>> print_ht executor_globals.function_table  
>>> // snip  
>>> [1032] "opcache_is_script_cached" => [0x55f464102df0] pointer: 0x55f464239e10  
>>> [1033] "hello" => [0x55f464102e10] pointer: 0x55f4598bf260  
>>> }  

>>> print_ht executor_globals.class_table   
>>> // snip  
>>> [198] "xmlwriter" => [0x55f4641b06f0] pointer: 0x55f4642353c0  
>>> [199] "app\foo" => [0x55f4641b0710] pointer: 0x55f4598bf720  
>>> }

php_request_shutdown() 実行後に関数テーブルとクラステーブルを確認すると、hello() と App\Fpp は削除されていることが分かります。

>>> print_ht executor_globals.function_table  
>>> // snip  
>>> [1032] "opcache_is_script_cached" => [0x55f464102df0] pointer: 0x55f464239e10  
>>> }  

>>> print_ht executor_globals.class_table  
>>> [198] "xmlwriter" => [0x55f4641b06f0] pointer: 0x55f4642353c0  
>>> }

一方、preload 実行で定義された関数やクラスはリクエスト終了時の php_request_shutdown() 実行でも削除されません。下記のように php_request_shutdown() 実行後でも preload 実行で定義されたユーザ関数やクラスが残っています。

>>> print_ht executor_globals.function_table  
>>> // snip  
>>> [1032] "opcache_is_script_cached" => [0x5647d7042ec0] pointer: 0x5647d7179ef0  
>>> [1033] "hello" => [0x5647d7042ee0] pointer: 0x5647cccc39d8  
>>> }  

>>> print_ht executor_globals.class_table  
>>> [198] "xmlwriter" => [0x5647d70f07d0] pointer: 0x5647d71754a0  
>>> [199] "app\foo" => [0x5647d70f07f0] pointer: 0x5647cccbee60  
>>> }

さいごに

OPcache によるオペコードキャッシュの仕組みを見てきました。PHP では zend_compile_file() のように主要な処理が関数ポインタとなっているので、この値を任意の関数に入れ替えることで呼び出し元には変更を加えずに処理を変更することができます。

本エントリでは OPcache のオペコードキャッシュのデータレイアウトや処理を行う関数、処理の流れをまとめました。OPcache のコードを読む際の足がかりしていただければ幸いです。

php.net

www.phpinternalsbook.com